みんなのために、電磁波はがんばっている

電磁波って何だろう?

 「電磁波」と聞くと私たちの生活から遠い存在に思えるが、実は日常生活に密着した電波や、生命活動を営むうえでかけがえのない太陽光の仲間である。目に見えるもの、見えないものも含め、電磁波について考えてみたい。

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電磁波の種類

 物質からはいろいろな種類の光が出ている。それらはすべて「電磁波」と呼ばれるもので、エネルギーの一種である。電磁波とは、電界(電場)と磁界(磁場)が相互に作用して組み合わさり、空間を伝播する波のことであり、電気が流れたり、電波の飛び交うところには、必ず何らかの電磁波が存在している。光も電磁波の仲間であり、電磁波と呼ばれるものには、「光」(紫外線・可視光線・赤外線)、「光」よりもずっと波長の短いガンマ線(γ線 以下、同じ)、エックス線( X線 以下、同じ)などから、「光」よりずっと波長の長いマイクロ波や放送用の電波まで、多くの種類がある。電磁波の中で人間が見える光を「可視光(かしこう)」と読んでいるが、これは「人間にとって見ることができる光」という意味で、電磁波の分類においては非常に狭い範囲でしかない。
 電磁波はその名の通り「波」の性質(波動性)を持っており、光と同じスピード(約30万km/秒)で進む。隣り合う波の山から山まで(または隣り合う波の谷と谷の間)の距離を波長といい、1周期の波が1秒間に往復する回数を周波数(単位:Hz)という。

 電磁波は波長の長さで呼び方が変わり、波長が短いものから
 電離放射線(γ線、X 線、紫外線の一部) <  紫外線 <  可視光線 <  赤外線 <  電波 
となっており、紫外線はその波長の長さによって「A波(UV-A)」「B波(UV-B)」「C波(UV-C)」に分類されている。波長が短い(周波数が高い)ものほど、電磁波のエネルギーは高くなる。

太陽と地球と電磁波

 太陽からはさまざまな種類の電磁波が放出され、地球にも降り注いでいる。地球には大気の層が存在するため、波長が短い電離放射線は大気層で吸収されてしまい、地表にはほとんど到達しない。
 紫外線の中でも波長が短いものほど地球を取り巻くオゾン層にカットされ、UV-Cは地表に届くことはない。紫外線のうち、UV-Bは0.5%程度、UV-Aは5%前後(季節や天候によって変動する)が地表に到達するといわれ、UV-Bは日焼けの原因となるため、陽射しが強まる季節やスキー場で、サングラスや化粧品などUVカットの商品に注目が集まる。一方、UV-AはUV-Bほど急激な変化を肌に与えないが、波長が長いため肌の奥深くまで到達し、じわじわと長い時間をかけて悪影響を与え、しわなどの原因になっていく。
 可視光線や赤外線のほとんどは地表に到達する。地球上で人類を含む多くの生物が生命を保っているのは、可視光線から赤外線にかけての太陽光エネルギーの恩恵を受けているのと同時に、生体にダメージを与える短波長( γ 線、 X 線、UV-Cなど)の電磁波を大気層が吸収・遮蔽しているおかげである。
 南極地方上空のオゾンホールが地球環境面で大きく問題視されているが、これはオゾン層で吸収されてしまうはずの紫外(UV)成分がオゾンホールを通り抜けて地表に届いてしまうからだ。

みんなのために、電磁波はがんばっている

いろいろな電磁波は、いろいろな場所でいろいろと役に立っている。その一部を紹介しよう。

1) 赤外線こたつは赤くない?

 本物の赤外線は目に見えないが、赤外線こたつが発売された当初、ある家電メーカーが赤く着色したガラス管に通常のランプを付け、スイッチがオンになった状態をひと目で分かるようにした。暖色による視覚的な効果も加わり、売り上げが伸びてヒット商品になった。それに追随し、他社メーカーの赤外線こたつも赤い光を発するようになったという。一方で、多くの人が「赤外線は赤い」という誤解を生む遠因のひとつとも考えられている。逆に、「LEDを使ったクリスマス・イルミネーションは冷たい感じがする」といわれるのは、実際に蛍光灯や白熱電球などに比べると点灯による発熱作用が少ないうえ、雪をイメージした白色などが多く使われたからだろう。

2) ガンマ線を照射して農作物を品種改良

 青森県で広く作付けされている「つがるロマン」は「ふ系141号」と「あきたこまち」をかけ合わせて作られた米であり、「ふ系141号」の系譜をたどると、二世代前に「レイメイ」という品種にたどり着く。「レイメイ」は寒さに強い稲としてガンマ線を照射して品種改良された稲であり、もとは「フジミノリ」という稲だった。「フジミノリ」は耐寒性はあるものの、背が高いため、風に倒れやすい欠点があったため、品種改良によって背丈を低くし、耐寒性をさらに強くした。青森や北海道など寒冷地で作られる米の多くは「レイメイ」を先祖に持っている。
 茨城県にはガンマ線を照射して農作物の品種改良を研究している「ガンマフィールド」という農場があり、「南風(「はえ」と読む・以下同じ)の淡紅」「南風の夕暮」「南風の夢車」など多くの菊がガンマフィールドで品種改良されているが、青森県の特産品「えみあかり」は青森県グリーンバイオセンターでX線を照射して開発されたもので、もとの菊は白色の「精雲」と呼ばれる輪菊である。

3) 15種類あるラジコンの周波数

 ラジコン用に割り当てられた周波数は飛行機、ヘリコプターなど空用で15バンド(15種類)あり、一度に最高15機を飛行させることができる。ただし複数人でラジコンを飛ばすときはお互いの周波数を確認する必要がある。確認を怠ると同じ周波数を何人も同時に使用するケースが生じ、機体は操縦不能に落ち入って危険な状態を引き起こす場合があるからだ。

4) 糖度計の仕組み

 光は、密度が違う物質を通り抜けるとき、屈折する性質を持っている。糖度計は、その性質を利用し、果物などに含まれる糖分の濃度(密度)の屈折率を目盛りに置き換えたものである。糖度計にはさまざまな種類があり、ポスターでは一般的な屈折式の糖度計をイラスト化しているが、近赤外線を使った非破壊糖度計は果物の表面に光センサーをあて、糖分が吸収する光の成分の変化量を読み取って、果物の糖度を調べることができる。検査用の果汁を搾ったり、果実を切ったりする必要がないので高級なメロンなどの検査に使用されている。

5) 生活の身近で働く、さまざまな電磁波

 X 線は健康診断でおなじみのレントゲン撮影に使われている。 高いエネルギーの電離放射線だが、短時間のみの照射なら特に問題はない。しかし、X線を繰り返し浴びる危険性のあるX線技師は撮影のたびに遮蔽室の中に入って作業を行っている姿を、誰もが目にしているだろう。
 電波にはマイクロ波、短波、中波、長波などいろいろあり、ラジオやテレビの放送に使われているのはよく知られている。マイクロ波の使用例として電子レンジは好例のひとつだ。英語では "microwave oven(マイクロウェーブ・オーブン)" と呼ばれ、まさに名は体を表している。携帯電話もまた、電子レンジと同じくマイクロ波によって動いている。
 これらは物理現象としてひとくくりの「電磁波」と総称されているが、それぞれの波長帯の特性を活かし、日常生活から医療、農業など多くの産業にわたってさまざまな形で電磁波は働いているのだ。

《参考資料》

《参考資料》

参考資料:青森県産業技術センターHP、総務省HP、電磁界情報センターHP、農業生物資源研究所HP 、放射線育種場HP、文部科学省(高校生のための放射線副読本)HPほか
参考図書:「悪魔の放射線1」(田邉裕著・文芸社)、「宇宙から探る地球環境 1巻 地球のすがた」(学研編集・学研教育出版)ほか
(いずれも50音順)